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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)5320号 判決

原告 国

被告 酒戸産業株式会社

主文

被告は原告に対し金三、一〇四、七三五円及びうち金一、八五一、四六〇円に対する昭和二七年四月一日から右支払済に至る迄金一〇〇円につき日歩二銭七厘の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

ただし被告が金一、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

請求の趣旨

主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。

請求の原因

一、貿易公団法に基き設置せられた公法人たる訴外原材料貿易公団は、昭和二四年一月二〇日被告との間に締結した業務代行契約に基き爾後同公団の取扱品目のうち細巾織物と紐(主として輸出品の結束用綿テープ)の仕入、保管並びに荷渡の業務を被告に代行させ、右の品物を販売するにつき、当初は、同公団において需要者から割当証明書と代金を受領した後品物の保管者たる被告に命じて需要者に荷渡させていたところ、昭和二四年二、三月頃からは、右割当証明書と代金の受領をも被告に代行させることとした。

二、同公団は昭和二四年四月一日解散し、訴外鉱工品貿易公団は同日原材料貿易公団からその所有、被告保管中の本件品物を譲受けると共に、被告の承諾をえて同公団と被告との間の右業務代行関係をそのまま引継いだので、被告はその後も引き続き鉱工品貿易公団のため右の業務を代行してきたが、昭和二四年八月から九月にかけ同公団が被告の在庫調査を実施したところ

(一)統制額金九、八二二、二二九円一四銭に相当する品物は割当証明書と引換に売却され、右金額は被告がこれを受領しているのにかかわらず同公団に入金されておらず、

(二)昭和二三年八月三一日物価庁告示第七八一号により被告が需要者から受領した取引高税相当額中金七六、三二一円七五銭は同公団に入金されておらず、

(三)被告が割当証明書を受領するとき需要者に貼付させるべき割当料印紙相当額を便宜需要者から現金で受領しながら、右証明書に印紙貼付を怠つていた金額が合計金二九、九八六円あることが判明した。

よつて、被告は、同公団に対し民法第六四六条により被告が需要者から受領した(一)(二)(三)の合計額金九、九二八、五三六円八九銭を引渡すべき債務を負担するに至つた。

三、その後同公団は昭和二六年一月一日解散し、右の債権は昭和二五年一二月二九日政令第三七三号鉱工品貿易公団及び繊維貿易公団解散令第一五条により昭和二七年四月一日原告に引継がれたが、被告は、それ迄に右債務のうち前項(一)の債務につき合計金八、〇七七、〇七六円六九銭を弁済すると共に、昭和二五年五月一六日同公団に対し本件債務について元金一〇〇円につき日歩二銭七厘の金利を支払うことを約し、昭和二八年三月左のとおり債務の存在を確認し且つ債務履行を誓約した。

(一)前項(一)の金額金一、七四五、一五二円四五銭(この引渡債務を以下第一債務という。)

(二)前項(二)の金額金七六、三二一円七五銭(この引渡債務を以下第二債務という。)

(三)前項(三)の金額金二九、九八六円(この引渡債務を以下第三債務という。右の第一、二債務は主たる債務であり、第三債務は従たる債務である。)

(四)右(一)(二)の合計額に対する昭和二七年三月三一日まで(起算日不詳)の日歩二銭七厘の割合による遅延損害金一、二五三、二七五円三五銭

合計金三、一〇四、七三五円五五銭

四、しかして、その後も被告は全く右の債務を支払わないので、原告は被告に対し右金額三、一〇四、七三五円(円末満切捨)及びそのうち遅延損害金を除く元金合計額(前項(一)(二)(三)の合計額)金一、八五一、四六〇円(円末満切捨)に対する昭和二七年四月一日からその支払済に至るまで約定利率日歩二銭七厘の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。

請求の趣旨及同原因に対する被告の答弁及び抗弁

一、原告の請求棄却・訴訟費用原告負担の判決並びに仮執行免除の宣言を求める。

二、請求の原因事実中

(一)(イ)割当証明書と引換に品物が売却され、被告がその代金を受領しながら鉱工品貿易公団に入金しない金額(ロ)被告が金八、〇七七、〇七六円六九銭の弁済をなした事実は何れも不明、

(二)(イ)被告が同公団に対し民法第六四六条により金九、九二八、五三六円八九銭を引渡すべき債務を負担する事実((ロ))被告の債務承認の時期が昭和二八年三月なること(ハ)第三債務が従たる債務であることは何れも否認、

第二債務の金額について被告は、右の債務確認弁済履行誓約書により昭和二七年三月三一日に至る迄の日歩二銭七厘の割合による遅延損害金の支払をなすべきことを承認しているけれども、同金額に対するその翌日以降の同損害金の支払義務及び第三債務の金額に対する金利の支払義務については、被告と同公団並びに国との間に何等約定が存在しない。

(三)その余の事実はこれを認める。

なお原材料貿易公団は公法人であるが、同公団は輸出入に関する業務として商法第五〇一条第一、二号に該当する行為を返覆しこれを業としているものであるから商人である。

三、抗弁

(一)被告は昭和二五年五月一六日付被告と通商産業省振興局経理部長並びに鉱工品貿易公団物資処理部長との間の誓約証書により被告の同公団に対する繊維雑品の未返還代金債権を同公団に対する売買代金債権と変更し、その弁済期限を昭和二五年九月三〇日とする旨の約定をなし、次いで昭和二七年に通商産業大臣池田勇人に宛て債務確認弁済履行誓約書を差入れているが、右の事実に徴すると、被告の同公団に対する債務中繊維雑品に関する債務は昭和二五年五月一六日以後買掛金債務となり、右の債務確認弁済履行誓約書は、池田勇人が同大臣に就任した昭和二七年一〇月三〇日からこれを辞任した同年一一月二九日に至る間に通商産業省に到達したものであるにより、第一債務金及びこれに対する日歩二銭七厘の割合による遅延損害金の各支払義務については右昭和二七年一一月二九日から起算し二年を経過した昭和二九年一一月二八日を以て民法第一七三条による消滅時効が完成し、同債務は消滅している。

仮りに、原告主張のように右の誓約書が昭和二八年三月九日付のものとしても、昭和三〇年三月八日を以て右と同様消滅時効は完成している。

(二)第二、三債務については、右昭和二七年一一月二九日から起算し五年を経過した昭和三二年一一月二八日を以て商法第五二二条による消滅時効が完成し、同債務は夫々消滅している。

よつて、被告は、本訴において右各債務につき夫々消滅時効を援用する。

被告の抗弁に対する原告の答弁

一、第一債務が売買代金債務に変更されたことはない。

二、訴外原材料貿易公団及び同鉱工品貿易公団は国家機関であつて、商人ではない。仮りに、それらが商人であつたとしても、民法商法等一般法の予想しない極めて特種な商人であつて、民法第一七三条の「卸売商人」もしくは「小売商人」に属しない。従つて同公団が被告との契約によりこれに対し有する繊維雑品の未返還代金等本件引渡債権は会計法第三〇条に所謂金銭の給付を目的とする国の権利に該当し、前記のような商人が売却した商品の代金債権に該当しない。右の未返還代金引渡債権は民法第一七三条の時効の適用を受けるものでない。

立証〈省略〉

理由

訴外原材料貿易公団が公法人であること。同公団が昭和二四年一月二〇日被告との間に爾後同公団の取扱品目のうち細巾織物と紐の仕入、保管並びに荷渡の業務を被告に代行させることを内容とする業務代行契約を締結したこと。同公団は、右品物の販売をするときには、直接需要者から割当証明書と代金を受領した後、右代行契約に基き右の品物を保管している被告に命じて需要者に荷渡しさせていたこと。昭和二四年四月一日同公団が解散したので、同日訴外鉱工品貿易公団は、原材料貿易公団から同公団所有被告保管中の前記品物を譲受けると共に、被告の承諾をえて前記業務代行契約による同公団の地位をそのまま引継いだこと。同年八月から九月にかけて同鉱工品貿易公団が被告の在庫調査を実施したところ、(一)割当証明書と引換に売却された前記品物の代金中被告が受領していながら未だ同公団に入金されていないものがあること。(二)被告が需要者から受領した取引高税相当額中金七六、三二一円七五銭が同公団に入金されていないこと。(三)被告が割当証明書を受領するとき需要者に貼付せしむべき割当料印紙相当額を便宜需要者から現金で受領しながら、その印紙貼付を怠り不法取得した金額が合計金二九、九八六円あること。よつて、被告は当時同鉱工品貿易公団に対し右(一)、(二)、(三)の合計額を引渡すべき債務を遅滞していたこと。同公団は昭和二六年一月一日解散し、前記債権は昭和二七年四月一日原告に引継がれたこと。被告は原告が右の引継をする迄に前記(一)の債務の一部を弁済したこと。昭和二五年五月一六日同公団と被告との間に右(一)の債務について日歩二銭七厘の割合による金利の約定がなされたこと。被告が原告に対し、右(一)の債務中金一、七四五、一五二円四五銭、同(二)の債務金七六、三二一円七五銭、右(三)の債務金二九、九八六円計一、八五一、四六〇円二〇銭及び同(一)(二)の債務額に対する昭和二七年三月三一日迄の日歩二銭七厘の割合による遅延損害金計一、二五三、二七五円三五銭合計金三、一〇四、七三五円五五銭の債務承認をしていることは何れも当事者間に争のないところである。

先ず(一)昭和二四年九月頃被告が割当証明書と引換に出荷した品物の代金中訴外鉱工品貿易公団に入金済となつていない金額が金九、八二二、二二九円一四銭である。(二)被告が右代金債務につきなした一部弁済の金額が金八、〇七九、〇七六円六九銭であると夫々原告が主張し、被告が右各数額の不明を以てこれを争う点につき検討するに、原告は、後日被告が右の残存債務につき承認をなしているから、その確定過程におけるその債務金額と一部弁済額に関する被告の異議は理由なしと陳べるだけで、原告において主張・立証の両責任ある右(一)の点につき原告から、通例先行自白と呼ばれるものに当り且つ被告において立証の責任ある右(二)の点につき右の責任者である被告からは勿論原告からも夫々立証がないので右の原告主張事実はこれを肯認し難い。しかしながら、被告が原告に対し昭和二八年三月九日(成立に争のない甲第三号証(右誓約書)並びに同第四号証(封筒)の各スタンプ日付及び証人山口一郎の証言により右の債務確認弁済履行誓約書の通商産業省に到達した日時が昭和二八年三月九日であること及び同誓約書の名宛人が池田勇人となつているのは、同証人から被告会社の監査役稲川伊太郎に交付した文案どおり同人が記載したによるものであることを認定することができる。これと異る日時に右到達ありとする被告の主張は採用し難い。)同日現在において被告が原告に対し第一ないし第三債務額計金一、八五一、四六〇円二〇銭及び第一、二債務額に対する昭和二七年三月三一日迄(この起算点は不明)の日歩二銭七厘の割合による遅延損害金一、二五三、二七五円三五銭合計金三、一〇四、七三五円五五銭の支払義務あることを確認しその債務の履行を誓約したことは、前記日時については前記証拠により、その他については被告の自白により寔に明白であるから、右債務確認なる事実の存在は、それのみを以て前記債務に関する部分の本訴請求を理由あらしめるに足るものである。

次に、第二債務について昭和二七年四月一日以後は、右と同じ割合による遅延損害金支払義務が被告に存しないと被告が抗争する点につき検討するに、証人同山口の証言によると、昭和二七年四月一日以後においても引続き被告に右の遅延損害金支払義務があるものなることを認めることができ、右の認定を動かすに足る証拠は他に存しないので、右の被告主張は採用し難い。

その次に、第三債務について右と同じ割合による遅延損害金支払義務が当初から被告に存しないと被告が抗争する点につき検討するに、第三債務なるものは、被告から品物の荷渡を受ける需要者が昭和二三年七月一二日法律第一五二号物資の割当に関する手数料等の徴収に関する法律により支払うべき割当料相当額の印紙を割当証明書に貼付すべきところ、便宜上被告が需要者から右相当額を現金で受領したものにつき、被告が民法第六四六条により同原材料貿易公団に対しこれを引渡すべき義務であることは、昭和二四年一月二〇日同公団と被告との間に成立した業務代行契約。

-この契約の成立事実及びその内容は前記のように当事者間に争のないところである-が準委任契約であることに徴すれば当然の事理であつて、しかして同契約に基く受任者の受領金銭引渡義務中第一、二債務が基本的のもの即ち主たる債務であつて、第三債務がその附随的のもの即ち従たる債務であることは、前記のように割当料相当金額の受領行為が便宜的なる性質にかんがみるときは、これまた論を俟たぬところである。更に、主たる債務である第一、二債務につき前記割合による遅延損害金支払義務ある特約が存するとき、従たる債務である第三債務についてもまた同じ割合による同損害金支払義務ある約定をも併せなしたものと推断することができる。然らば、第三債務についても当初から右と同じ割合による同損害金支払義務が被告に存するというべきである。この点につき右の断定と相反する(一)被告に民法第六四六条による金銭引渡義務がない(二)第三債務は従たる債務でない(三)同債務につき前記の割合による遅延損害金支払の特約なきによりその支払義務が被告に存しないとの被告の主張は採用し難い。

さて次に、抗弁(一)が理由があるかどうかについて検討する。

貿易公団法第一条、第二条、第四条、第一二条、第一五条及び第一六条が規定するところにかんがみるときは、本件債権の元権利者たる原材料貿易公団及び鉱工品貿易公団は国家機関たる公法人にして且つ非商人性を帯有するものであるから、会計法第三〇条に所謂金銭の給付を目的とする国の権利に該当する前記の同公団の被告に対する未返還代金の引渡債権は、これを同公団の被告に対する売買代金債権に更改することはできない。然らば、被告が、成立に争のない甲第二号証(誓約証書)に同公団の売掛金とする文言あるを盾にとり右の債務更改ありとし、同公団は商人であるとの立論の下に民法一七三条の短期時効の援用をなす被告の主張は理由がない。そして、前記のような本件債権は、その債務承認のあつた前記昭和二八年三月九日から起算して、会計法第三〇条所定の消滅時効期間たる五年以内なる昭和三二年一一月二八日に裁判上の請求のなされたことが本件記録上明白であることにより、未だその消滅には至らない。よつて本抗弁は採用し難い。

最後に、抗弁(二)が理由があるかどうかにつき検討する。

前記のように同公団の法律的性格即ち非商人性の帯有ということより論ずるときは、第二、三債務なるものは商行為によつて生じたそれとは称し難く、これらは前記のように第一債務と債権の性質を同じうするものであるから、被告が商法第五二二条の消滅時効の援用をなす本抗弁また採用し難い。叙上の次第により本訴請求は正当であるからこれを認容し、民事訴訟法第八九条及び第一九六条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 井上松治郎)

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